WebAssembly(WASM)は、近年 Web 開発や高速処理の文脈で急速に存在感を増している技術です。 「ブラウザで高速に動く」「Rust と相性が良い」といった話を耳にしたことがある人も多いでしょう。
この記事では、WASM の基本から将来性、Rust を使った実践方法、そして私自身が感じた「Python の WASM が遅かった理由」まで、まとめて紹介します。
WASM の読み方
「ワズム」または 「ウェブアセンブリ」と読みます。 海外では “Wasm(ワズム)” が一般的です。
WASM って何?
WebAssembly(WASM)は、ブラウザで高速に動作するバイナリ形式の実行環境です。
JavaScript の限界を補うために作られ、次の特徴があります。
- 高速(ネイティブアプリに近い性能)
- 安全(サンドボックスで実行)
- ポータブル(OS・CPU に依存しない)
- 多言語対応(Rust、C/C++、Go、C#、Python など)
特に「重い処理をブラウザで動かしたい」場合に強力です。
WASM の将来性
WASM は単なる「Web の高速化技術」ではなく、汎用ランタイムとして進化しています。
1. Web の外でも使われ始めている
- Cloudflare Workers(エッジコンピューティング)
- Fastly Compute@Edge
- サーバーレス実行環境
- IoT / 組み込み
軽量で安全な「次世代コンテナ」として注目されています。
2. 言語を選ばない
Rust、C/C++、Go、C#、Python など、多くの言語が WASM に対応。 将来的には 「WASM にコンパイルすればどこでも動く」世界が現実になります。
3. AI と相性が良い
ブラウザでの AI 推論(画像分類、音声認識、背景ぼかしなど)が増加。 WASM + SIMD + マルチスレッドで高速化が進んでいます。
4. 大手企業が採用
- Figma
- Adobe(Photoshop Web 版)
- Google / Microsoft
- Shopify
- Cloudflare
すでに実戦投入されており、今後も採用が広がると予想されます。
WASM におすすめの言語は? → Rust が最有力
WASM と相性が良い言語はいくつかありますが、Rust が頭ひとつ抜けています。
Rust が選ばれる理由
- メモリ安全(WASM の設計思想と一致)
- 高速(C/C++ に匹敵)
- WASM との統合が成熟(wasm-bindgen / wasm-pack)
- バイナリが小さい
- 最適化が効きやすい
特に「高速処理 × 安全性 × Web」という組み合わせでは、Rust が最適解になりつつあります。
WASM の環境構築は難しい?費用はかかる?
結論としては 「簡単で、無料」です。
■ よくある疑問
Q. WASM の環境構築って難しいのでは?
A. Rust が入っていれば、3コマンドで終わります。
Q. 有料ツールが必要?
A. すべて無料です。Rust も wasm-pack もオープンソースです。
Q. 特別な IDE やクラウド環境が必要?
A. 不要です。Windows / macOS / Linux どれでも動きます。
■ 実際に必要なもの
- Rust(無料)
- wasm-pack(無料)
- Node.js(簡易サーバ用、無料)
これだけで、WASM の開発環境は完成します。
WASM で Rust を使う方法(最小構成)
Rust で WASM を使う環境は驚くほど簡単に作れます。
1. WASM ターゲットを追加
rustup target add wasm32-unknown-unknown
2. wasm-pack をインストール
cargo install wasm-pack
※結構時間かかります。(5分ぐらい)
3. プロジェクトを作成
cargo new wasm-sample --lib
cd wasm-sample
4. wasm-bindgen を追加
Cargo.tomlに追加します。
[package]
name = "wasm-sample"
version = "0.1.0"
edition = "2024"
[lib]
crate-type = ["cdylib", "rlib"]
[dependencies]
wasm-bindgen = "0.2"5. Rust コードを書く
src/lib.rs:
pub fn add(a: i32, b: i32) -> i32 {
a + b
}
fn main() {
println!("{}", add(2, 3));
}

6. ビルド
wasm-pack build --target web
7. HTML から呼び出す
プロジェクト直下に index.html を作成:
<!DOCTYPE html>
<html lang="ja">
<body>
<h1>Rust + WebAssembly Sample</h1>
<div id="result"></div>
<script type="module">
import init, { add } from "./pkg/wasm_sample.js";
async function run() {
await init(); // ← これが超重要
const result = add(10, 32);
document.getElementById("result").textContent = result;
}
run();
</script>
</body>
</html>
8. 簡易サーバで開く
Node.jsが入っていれば、ターミナルで以下を実行すればURLが表示されます。
※Node.jsがインストールされていない場合は以下のサイトでインストールしてください。
https://nodejs.org/ja/download
※Windows インストーラ(.msi)でインストール
npx serve .
URLをクリックするとPGが実行されます。

WASM のパフォーマンスは本当に速いのか
結論として、Rust + WASM は本当に速いです。 ただし、WASM を使う言語や仕組みによって体感速度は大きく変わります。
私の体験:Python(PyScript / Pyodide)は正直かなり遅かった
以前、WASM に興味を持ったときに Python を WASM で動かしてみたことがあります。 PyScript(Pyodide)を使ったのですが、正直なところ かなり遅いという印象でした。
- 起動が重い
- 実行も遅い
- メモリ使用量も多い
この記事にも書きました。
この経験から「WASM って遅いのでは?」と思ってしまいがちです。
しかし、これは Python 側の構造的な理由であって、WASM 自体の性能とは別問題です。
なぜ Python WASM は遅いのか
Python を WASM で動かす場合、仕組みはこうなっています。
- CPython(インタプリタ)を丸ごと WASM に移植
- NumPy などのライブラリも WASM 化
- 起動時に数十 MB を読み込む
- 実行はインタプリタ方式のまま
つまり、WASM の上で Python インタプリタを動かしているだけです。
そのため:
- 起動が重い
- 実行速度も Python のインタプリタ性能に依存
- ネイティブに近い速度は出ない
結果として「WASM が遅い」という誤解が生まれます。
Rust + WASM が速い理由
Rust は Python と違い、WASM に直接コンパイルされる言語です。
- インタプリタなし
- バイナリが軽い
- 最適化が効く
- メモリ管理が安全
- JS との橋渡しが高速
WASM の性能を 最大限に引き出せるのが Rust の強みです。
Python WASM と Rust WASM の違い(体感イメージ)
| 技術 | 実行速度 | 起動 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Rust + WASM | 速い(ネイティブ級) | 速い | 最適化・軽量・高速 |
| C/C++ + WASM | 速い | 速い | 高速処理向け |
| PyScript(Pyodide) | 遅い | 重い | インタプリタ方式 |
| JavaScript | 中速 | 速い | UI 向け |
「PyScript が遅い」と感じた、 Python を WASM で動かす方式の限界であって、 WASM 自体の性能とは関係ありません。
まとめ
- WASM の読み方は「ワズム」
- WASM はブラウザで高速に動くバイナリ形式
- 将来性は高く、Web を超えて広がっている
- Rust は WASM と最も相性が良い言語
- WASM の環境構築は簡単で無料
- Python WASM が遅いのは Python の構造上の問題で、WASM 自体は高速


コメント